私は運動が苦手だ。
体を動かすことは嫌いではない。だが、思い返せば運動会のかけっこは最下位が定位置だった。
運動会の時期になると、短距離走の選手だった母親がよく付きっきりで走り方を教えてくれた。しかし私の足は一向に速くならなかった。
球技も苦手だ。子どもの頃からピアノを習っていた私は、突き指してピアノが弾けなくなるのが嫌だったため、基本的にボールあそびは避けていた。そして、ほとんどのスポーツから距離を置いた。
人並みにできると言っていいのは水泳くらい。とはいえその水泳も、教職課程で学んでいた学生時代、25mのタイムが遅いという理由で補習になった。
とにかく私は運動が苦手だ。
中学生の頃、市の体力テストがあった。クラスの女子生徒全員が体育館に集められ、長座体前屈や立ち幅跳びの記録を測定した。
体力テストの結果は種目ごとに1から10までの10段階で評価された。1が最も悪く、10が最も優れているといった具合だ。
運動が苦手な私は、ほとんどの種目で10段階中2あるいは3の評価だった。とりわけ苦手だった長座体前屈には1がついた。
しかし、一つだけ私が高評価を獲得できそうな種目があった。反復横跳びである。
反復横跳びは、基準となる左右のラインを踏むか超すかさえすれば良い。子どもの頃から背の高かった私は、脚のリーチのおかげで、最小限の動きで反復横跳びが可能だった。
反復横跳びの記録を取る前、練習も兼ねて動作を確認する時間があった。クラスの女子生徒全員が一列に並び、反復横跳びの動きを確認する。
それを見て私は愕然とした。
皆、あまりにも遅い。
他の生徒を観察してみるに、全身を使って左右に重心を移動させており、それが無駄な動きになっているように感じた。一方で私は上半身を固定気味にして、脚だけを左右に移動させる意識で動いていたため、素早く左右に跳ぶことができていた。
身長にかかわらず中央から左右のラインまでの距離が決められている反復横跳びという種目には、欠陥があると思う。だが2あるいは3ばかりの成績表の中、一つくらい良い結果を残せるチャンスではないか。
しかしながら、こうも思った。
足も遅い、ボールも前に飛ばない、それなのに左右に飛ぶスピードだけは速い。
自分、キモくない?
また自分の上半身を固定し、脚のみ左右に反復運動させるという反復横跳びの攻略に特化した自分の動きは、非常にダサいということも自覚していた。
ダサさを引き換えに反復横跳びをすれば、10の成績を獲得し得るかもしれない。
悩んだ末に私は、本番で7割程度の力しか出さなかった。
周りの大勢の生徒たちのように、全身を使って左右に移動した。
結果、成績表には7の評価が付いた。
あのとき、本気で反復横跳びをしていたら?
どのくらいの評価が出たのか気になる。